語られない「台湾有事」ロシアの重要な立ち位置 中国に「引き摺り込まれる」可能性もある

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最も可能性の高いシナリオは、台湾侵攻と同時に、中国がロシアに日本の北方への軍事行動をとるよう圧力をかけるというものだ。

これには大規模な軍事演習やミサイル発射も含まれるだろう。ロシアの軍用機や軍艦が日本の領空や領海に侵入する可能性がある。ロシアが日本の民間船を沈没させる可能性さえ排除できない。もちろん、ロシア政府は同船がロシア領海に不法侵入したと主張するだろう。

これはロシアの台湾攻撃を意味するものではないが、こうした行動は中国にとって非常に重要となる。中国の台湾侵攻の成否は、双方が展開できる船舶、潜水艦、航空機の数に依存する。

中国の侵攻を確実に「失敗」させるには

中国の侵攻を確実に食い止めるには、台湾、アメリカの軍隊は、中国が台湾に主要な橋頭堡を築く前に、中国の侵攻艦隊を破壊しなければならない。

日本の自衛隊もこの紛争で重要な役割を果たす。台湾侵攻時、中国は日本周辺でアメリカ軍の艦艇や航空機を攻撃し、在日基地をミサイル攻撃する可能性がとても高く、日本の直接参加は避けられなくなる。しかし、ロシアの挑発に応じて一部の艦艇や航空機が北方に派遣された場合、中国の侵攻艦隊を破壊する目的の達成はさらに困難になる。

重要な点は、たとえプーチン政権が台湾有事にかかわりたくないとしても、ロシアが中国のアシスタントになる可能性があるということだ。ロシアの役割は台湾有事の結末に決定的な影響を与える可能性があるため、中国侵攻のシミュレーションの中でロシアの潜在的な役割も適切に研究することが不可欠である。

ジェームズ・ブラウン テンプル大学ジャパンキャンパス、政治学教授

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James Brown

主な研究テーマは、ロシアの政治と現代の日ロ関係。1982年、北アイルランド・ベルファスト市生まれ。イギリスとアイルランドの国籍を持つ。2003年、イギリス・ヨーク大学政治学科卒業。2006年にエディンバラ大学大学院にて国際・ヨーロッパ政治学修士課程を、2007年にアバディーン大学大学院にて政治学研究修士課程を修了。2011年、アバディーン大学大学院にて国際関係学博士号を取得。2011年、大和日英基金の奨学金を得て来日。著書に「Japan, Russia and their Territorial Dispute: The Northern Delusion」、共著に「Japan’s Foreign Relations in Asia」がある。

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